山の本

山谷放浪記 小島鳥水著

青木書店の一冊。昭和18年に出された本のようです。小島氏の晩年に出された本で以前に書かれたものからの抜粋になっているようです。表紙など茨木猪之吉氏の絵が使われており、また表紙の後には、中村清太郎氏の「白峰の夕照」という絵も一枚挿入されています。

やはり読んでみるとなかなか面白いです。山の黎明期でまだどうやって山に登るのかさえ確立されていなかった時代ですから、案内者を連れて、ようやくその未知が徐々に判明していくその課程はとても面白かったに違いありません。この本の中でも「常念岳大天井岳の所在捜索の門出」「燕岳大天井岳に登る記」などであまり知られていなかった大天井岳へ登る話があり、やはり知られざる山に登るという雰囲気がよく出ています。

一番印象に残ったのは、実は紀行ではなくて、「鎗ヶ岳と槍ヶ岳・雙六谷と双六谷」という文章です。槍ヶ岳の「鎗」と「槍」の文字についてご本人が書いています。「槍ヶ岳」は明治になっても大抵「鎗ヶ岳」と書かれたとあり、「播隆の自記には鎗と槍と、同様にしるしてあるが、むしろ鎗の方が多い。」とあります。また、「河野齢蔵氏が鎗には武器のやりという意義はなく、全然別の意義であるから、槍に改むべきだと主張して以来、今では、殆ど悉く槍と書いてゐるが、本邦の古文書には、鎗を武器のヤリに当てて通用してゐる例が多い。」とあります。いずれにしても古字に従わなければならないというものでなく、通用していればそれでいいのではという立場を小島氏はとっているように思えました。

なかなか楽しい本で、また取り出して読むことになるでしょうね。

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信州すみずみ紀行 高田宏著

中央公論新社の一冊。古書展で並べられていたので、なんとなく手に取ってみたのですが、値段も安かったので購入してみました。高田宏氏の事は知りませんでしたが、深田久弥山の文化館館長なども務められている方だそうで、本もたくさん出されているようです。読んでみるとその地の歴史なども交えてなかなか面白く読めました。

最初に書かれているのが「栄村雪紀行」で、東日本大震災の影でそれほど報道されなかった大地震のあった栄村のことですね。もともと雪深い場所であるあの村は特に観光と言っても山登りや温泉くらいしかなく、わざわざ行ってみる人はそれほど多くはありませんがとても自然が豊かで良い場所です。自分も山登りで歩きに行った時のことを思い出しながら読むととてもその景色が目に浮かぶようでした。

他にも天竜川紀行や戸隠・鬼無里紀行、飯山線沿線紀行など、楽しい紀行文が多く、楽しい一冊でした。他の本もちょっと読んでみたくなりました。

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山名の不思議 私の日本山名探検 谷有二著

平凡社ライブラリーの一冊。山名というのはやはり興味があるテーマの一つで読んでみたいとかなり前に新書で購入しておきました。あとがきにありましたが、元々「富士山はなぜフジサンか」という本があり、それに手を入れたり追加した本のようです。

読んでみるとなかなか面白く、あっという間に読み進められてしまいます。しかし一度読んだだけではとても全部を理解するのは難しいようです。

興味を持った部分はたくさんありますが、「美女のウインク、巻機山」の中で大同・片目伝説について言及している部分です。神社仏閣には大同二年開山説が意外に多いようで、これは空海上人が密教を習得して中国から帰国した年であることと関係があるらしい、ということと、鉱物採取や鍛冶の技術を身につけていたことから片目・大同伝説を伝承として持ち歩いたために関係した金属鉱山にこれらの伝説が残された、という話です。「伊吹山と金糞岳のくさい関係」では、昔は鉄作りは温度計などないのでのぞき口から片目で火の色を見て調節したので、目がやられるという職業病があり、片目伝説は金属に関係があると考えて差し支えないと書かれています。意外にこうしたものと地名が関係しているというのはなかなか面白いものでした。

やはり何度も読み返して味の出る本だと思います。また忘れた頃に読み直したいと思っています。

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生活の中の山 小野幸著

朋文堂の一冊。昭和28年に出された本のようですが、限定1000部だったようです。小野幸氏のお名前は奥秩父などのガイド本で見たことがありますが、どんな方なのかはあまり知りませんでした。ちょっと興味を持って読んでみました。

この本では「小さな村」という話から始まります。ここでは金峰山の麓の金山集落を題材に取り上げています。奥秩父に行く人なら一度は金峰山に行ったことがあると思いますが、その時に通る金山からの金峰山の眺めは素晴らしいものです。奥秩父好きの方には気に入られる場所の一つであるでしょうし、やはり題材として取り上げたくなる場所なのでしょう。

ジャヴェル「登山家の思い出」という話では、山岳会の藤島さんから初版本をお借りできたと書かれています。当時の事ですから、おそらく山岳会とは日本山岳会ことで、藤島敏男さんの事なのでしょう。「奥秩父の南部」では、わずか数ページではありますが、國師から奥千丈嶽を越えてゴドメキへの尾根筋はあまり感心したものではないとか、大烏山の登路として一番面白いものは杣口側だとか、やはり奥秩父をほとんど歩かれている様子が伺えます。

ちょっと退屈するような話もありましたが、戦前から戦後にかけての山の雰囲気が伝わってくる本でした。

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日本山河誌 高須茂著

角川選書の一冊。昭和51年の初版でした。高須氏の事は知りませんでしたが、大正時代から山を歩き、雑誌の「山小屋」「岳人」などを編集された方のようです。この本では山に関する四方山話になっていますが、なかなか面白いものでした。

「谷と沢 -その地名など」では、谷や沢に関する地名や用語などについて書かれています。谷を越中や能登ではたんとかだんと訛って発音することで、ハシゴ段乗越は誤りで梯子谷乗越の間違いだろうとか、なかなか興味深い事が書かれています。

やはり山の本好きに興味深いのは最後の「山岳書について」でしょう。日本風景論とか日本山嶽志とかをいかに先輩に勧められても読む必要はない、いきなりこんなものにとりついたらいっぺんで懲りてしまう、と喝破しています。確かにある程度山の本を読んだ人には面白いものですが、最初に読むには辛いもので、思わずうんうんと頷いてしまいました。

こういう本はやはり一度だけ読んだだけではもったいない感じです。また忘れた頃に取り出して読みたいですね。

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山の幸 深田久弥著

青木書店の一冊。全集でも読んだことがありますけど、同じ本を原本で読むのはやはり少し受け取り方も違ってきます。特にこのような戦前の本では当時の写真が使われていたりして独特の雰囲気があり、また文字が旧字体であったり、装丁に和紙が使われていたりするなどして古き良き時代の良さを知ることができます。自分が手に入れた本は昭和15年の初版のようです。残念ながら函はありませんでしたが、この時代の本は手に入るのだけでも貴重なので仕方ないでしょう。

他の人の本でも思いますけど、書き手の置かれている状況によって、同じ人が書いた本でもこれほどまでに違うのかという印象を受けることがあります。この本ではやはり深田氏がかなり山に入れ込み、そして本当に楽しく登っていたかということが随所に出てきます。巻頭の「春の山」など読んでいて、こちらまで楽しくなってしまうような雰囲気です。

百名山の功罪はともかく、このような本をたまに読んでみるのも決して悪くないと思います。

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心に山ありて 今井雄二・喜美子著

同信社の二冊。「心に山ありて」と「続心に山ありて」は別々に出された本ですけど、二冊セットのものを手に入れました。著者の事をほとんど知らなかったので調べてみると、おしどり夫婦の登山家として有名だったようです。お二人とも戦前から山に登り、特に喜美子さんの方はまだ女性が山登りをするということが普通ではなかった時代から登られていたので、いろいろそのために嫌な思いもされたようで、本文にもわずかですがそのような事が推察できるような事が書かれていました。

「心に山ありて」「続心に山ありて」のいずれも雑誌などに書かれたものが多いようです。特に「アルプ」という雑誌にはかなり文章が載せられていたようです。どちらかというとのんびりした雰囲気で、ゆったりとした気持ちにゆとりのある時にゆっくり読みたい、という感じでした。

印象に残ったのはいくつかありますが、「剣八ツ峰」と「源次郎尾根」でしょうか。喜美子さんがどうしても行きたいと小屋のおじさんに頼み込み、まだ女性は歩いたことがないというそのあたりへいくお話です。今ではちょっとしたバリエーションコースとしてそれなりに山慣れた人なら歩いてしまう稜線でしょうけど、ほとんど人の入らなかった戦前の事では踏み跡もなかったであろうし、かなり大変だっただろうと思います。

なかなか興味深く、そしてのんびりした雰囲気の本でした。

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山書散策 河村正之著

東京新聞出版局の一冊。山の本ではなく、山の本の本です。ってややこしいですけど、日本山書の会の会員でもある著者が、「岳人」という山の雑誌に「山書彷徨」と題して連載したものを集めたもののようです。なかなか読み進めると面白くて、あっという間に読んでしまいました。

蒐集物語Ⅰの中で「大原則として、私は本は読むために買うのである。・・・だから高価な本は買わない。豪華本や限定版にも興味はない。」と書いています。とてもこのあたり共感でき、ちょっと親しみを覚えます。それに山の文庫本を結構詳細に紹介しているのもいい感じです。自分も読めればよいと文庫本を過去に買いあさりました。今は大抵の本を手にするか原書を手にしているので滅多に買うことはなくなりましたけど、今でもたまに取り出して読み返したりしています。

それにどのように山書を買うかについても書いてますが、山人の猟場のポイントを身内にさえ話をしないという例を挙げて、その心境に近いと書いています。確かにいい本が見つかる本屋さんはあまり人に話したくないですね。雑誌や会報なども紹介されていますが、これらに手を出すと収拾が付かなくなるので自分はあまり手を出さないようにしています。でも、読むとうーん、ちょっと欲しくなってきてしまいます。

なかなか楽しい一冊でした。

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深田久彌 山の文学全集11 中央アジア探検史

朝日新聞社の一冊。深田氏はヒマラヤと中央アジアの歴史や探検に関して特に傾倒し、洋書を多数含む古書集めについてはもう誰も真似の出来ない領域に入っていたようです。その深田氏が書いた中央アジア探検史は結局、残念ながら急逝によって完成には至らなかったということでした。自分はそれほどこの分野に興味があった訳ではありませんが、せっかく買った本ですから読まないといけない、と思って読んでみると、意外にその面白さにはまりました。この本では「中央アジア探検史」から著者によらない数編を割愛し、「スウェン・ヘディン」は「ヘディン中央アジア探検紀行全集」の「解説」から、「西域の探検家」は「西域探検紀行全集」の「解説」から採られたものと書かれていました。

人を単位に書かれた記述は要点をうまくまとめているのでやはり読みやすく、あまりその歴史を知らない自分でも読み進めて行くことができました。特にジンギスカン、マルコポーロ、河口慧海などについてはなかなか興味深いものでした。そのうちに一度は読んでみようかなと思わせてくれます。

なかなか面白い一冊でした。

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わが山岳巡礼 一人で歩いた450座より 小板橋光著

山と渓谷社の一冊。小板橋氏は百名山にも完登され、450座以上登られたようです。この本ではその中から北海道から九州まで幅広く山行記をセレクトしたものになっているようです。国鉄に勤められていた方のようなので、どちらかというと車山行ではなく、鉄道とタクシーを利用した山登りになっているのが自分にとっては親しみが持てました。車で一番近い登山口から往復する、といった登り方をすれば、道路の発達した現在では比較的簡単に百名山など歩けてしまうと思いますが、公共交通機関を利用すると、そう簡単には行かないと思います。でも、簡単には登れない山に行けた時の達成感と充実感は素晴らしいものがありますね。

話が逸れてしまいましたが、この本はつい最近の本のようですが、それでも1995年の発行ですでに20年が経過しているようです。自分が歩いたことのある山ではその内容がとても理解でき、想像ができるのですが、歩いたことのない山域の話だと概要図もないので、ちょっと分かり難い部分がありました。

まあ、休日にこういう本を軽く読んで、山の雰囲気に浸るのもまた良い時間ではないでしょうか。

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