動植物の本

草木おぼえ書 宇都宮貞子著

読売新聞社の一冊。購入した本は1975年の二刷で、初版は1972年でした。やはり以前に「草木ノート」を読んだ時と同様、二段組みで350頁以上あり、かなりの分量があります。そのために読むのにもだいぶ時間がかかりました。

内容はやはり草木についての長野県の各地での呼び名やそれにまつわるたくさんのお話で構成されています。これだけの文章をまとめるには、果たしてどのくらいの人からどのくらいの時間を掛けて聞かれたのか想像できないくらいの量になっています。後書きなどでもちらほらと書かれていましたが、やはり時間があれば少しでもお話を聞きに出掛けている、という状況だったようです。貴重な内容でおそらく今の農家の方々に聞いても、ここまでのお話は聞けないのではないかと思われる内容が多々含まれています。飢饉の時にこの草を食べた、なんていう話は現代ではほとんどあり得ない話です。

おそらく自分などは見ていても通り過ぎてしまうような草も含まれていますが、農家の方にとっては非常に根が深くて畑から抜きにくい草だったり、やたらと増えて困るような草についてはとても重要な知識ですから、そういう草に対してもたくさんの名前が付けられています。しかし、宇都宮さんでも名前からでは同定が困難な草は後で送ってもらって同定したりしていたようで、本文にもそのような記述がありました。こうして読んでみると、同じ地方でもたくさんの呼び名があり、またそれぞれが確かにと頷けるような名前も多かったりして、やはり民俗学的な見地の資料ともなるのでしょうね。

誰にでも勧められる本とは言い難いですが、草木に感心のある方は探して読んでみてはいかがでしょうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

自然の心 佐藤達夫著

自然の心 佐藤達夫著

毎日新聞社の一冊。本を探していると佐藤氏のお名前を時々見掛け、手には取る物の買ったことがありませんでしたが、なんとなく出掛けた古書展で他に買うようなものもなく、安く売られていたのでふと手にとって買ってみました。古書の値段と本の良さは関係がないようです。高い本を買い込んでも、自分にはまったく買うような意味がなかったと失敗した気分になる本もありますし、安い本だからと言って無視していると、実は素晴らしい本であったりすることがあります。この本は後者に当てはまりました。

読んでみると、軽妙なエッセイで、非常に分かりやすく読みやすい本に仕上がっています。いろいろな雑誌や新聞などに向けて書かれたものを集められたようで、一つ一つの文章はそれほど長くはなく、それがかえって飽きの来ない文章になっていました。

佐藤氏は人事院総裁も務められていたようで、まったく植物学とは関係なさそうですが、かなり好きだったようで牧野博士とも親交があったようです。また本の中にも出てきますが、昭和47年の本ですから、昭和天皇陛下ともお付き合いがあり、その時の事が書かれています。陛下もかなり植物はお好きだったようで、佐藤氏はかなりの植物を贈られたそうです。自生地はブルドーザーに宅地にされてしまったりということがよくあったようで、その前に採取したものを御用邸に植えられて、もうそこでしか見ることができない、という貴重なものもあるようです。このあたりは興味深く読めました。

なかなか面白い本でした。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

民俗と植物 武田久吉著

講談社学術文庫の一冊。元の本は昭和二十三年に山岡書店から出された本のようです。何回か古書店でも見かけたことがあるものの、何となく難解なイメージで買わなかったのですが、文庫本を見つけたので新書で買ってみました。武田氏は山にもよく行かれていて、前に読んだ「尾瀬と鬼怒沼」などもありますが、この本では草木を中心として民俗学的な見地から書かれています。

 地方によって草木の名前がいろいろ異なっていることは、これまた以前に読んだ宇都宮貞子さんの本などにもよく書かれていましたが、この本の中でもたくさん紹介されています。例えばキブシという木は、幹に白い髄があって子供が押し出して遊ぶのでズイノキ、ツキダシノキ、シロツキデ、ツキツキ、ツイツイなどと呼ばれると書かれていました。文献だけではなく、実際に山やその土地へ行ったときに採取した話などもたくさん含まれているようです。

 なかでも興味をもったのは「地名と植物」で、奥多摩の蕎麦粒山は山の概形が蕎麦に似ているからこの名が付いたとか、留浦や小留浦は、トズラはオオツヅラフジの方言であり、それが多量に産する所から名が付いたと書かれていました。確かに奥多摩には藤の木が多い所がありますので受け入れられるものですね。

知らない植物も多く、ちょっと読みにくい話もありましたが、読んで見て損はない本だと思います。

 

| | コメント (2) | トラックバック (0)

草木ノート 宇都宮貞子著

読売新聞社の一冊。宇都宮貞子さんのお名前を知ったのはだいぶ前で、「アルプ」という雑誌に草木随想を載せていたということを別な雑誌で読んだからでした。探してみましたが、なかなか出物が少なく、手に入れたのは最近になってからでした。この草木ノートはこれまた古本バトルがあって、隣の人が手を伸ばしかけたのでちょっと焦りましたが、その人が取ったのは別な本でした。すかさず奪取し、値段を見てニヤリ。良い買い物でした。

この本は草木随筆でもあり、また、長野のいろいろな地方での聞き語りにもなっています。自分なんかはほとんど知らないような植物の名前がたくさん登場し、生活と密着した植物の話はとても興味深いものです。昭和30年台から40年台にかけていろいろな山村に出掛けては、当時のご老人にお話をお聞きした内容で、民族学的な価値があるのだと思います。300ページ近くあり、かつ、2段組でかなり内容も濃い物でした。その上に方言がたくさん出てくるので、読むのにかなりの時間を必要としました。

印象的な話はたくさんありますが、蚕の話はやはり興味深いものでした。人出が足りないので蚕トードと呼ばれる雇い人の話があり、トードとは田人(たうど)で、普通田圃の仕事に頼むヒョットリ(日雇(ひよう)とり)をいうので、養蚕の手伝いの人は蚕トードというらしいです。ある家で蚕が目に見えて減ったのでおかしいと思っていたら、蚕トードが人のいない時に蚕室に入り、もくん、もくんと食べていたとか。別な話では金持ちからお金を借りて蚕が上がったらそのお金で返すと約束したところ、蚕が大当たりでとてもよかった。すると、急に蚕がおかしなことになり、よく見ると、食べ残しの桑に蚤取粉みたいなものが付いていて、買った店から犯人が挙がったら、その金持ちが犯人だったとか、読んでいて面白いものでした。

串田氏が装幀と前書きを書いています。なかなかいい本でした。

| | コメント (0)

植物知識 牧野富太郎著

講談社学術文庫の一冊。これは新書で購入しましたが、もう手に入りにくくなっているかも。よく手書きの絵で描かれた植物図鑑を見掛けますが、著書を読むのは初めて。かなり独特の植物用語が出てくる上に、かなり古い書物なので、なかなか難解です。かなりの注釈が付いていて、それがないと分からない単語も多く、また、今では使わなくなった用語などもかなりあるようです。

ボタン、キキョウ、スイセン、シャクヤクなど、ごく普通の植物を取り上げて解説しています。自分はこの本を読んで初めて知ったようなことも多く、なかなかためになります。例えばリンドウの根から健胃剤の元になる成分が取れるとか、スミレの字として「菫」を当てているが、菫という植物は元来、畑に作る蔬菜の名であるのでこの字を使うのは誤りであること、などです。

本の中で何度か出てきますが、「~と言ってよく」の「よく」は「能く」の字を書くのが本当で、「良」を使うのは誤りである、と書かれています。しかし、残念ながら牧野博士の説は今では「能く」と書く人はあまり見あたらないようです。

このような植物の話は、なかなか勉強になりました。

| | コメント (0)

動物紳士録 西丸震哉著

たまには山の本から離れてということで、中公文庫の一冊。

たまたま地元の古書店をのぞいたら、ふと「西丸」の文字が見えたので、手に取ってみたら、あの西丸震哉氏の本でした。色褪せていて、100円の所、2割引きセールで80円という安価で購入しました。かなり昔に絶版になっているようで、古い中公文庫の本を多く置いてある古書店でも、あまりお目にかかるような事はない本です。昭和55年の初版でした。

氏の山の本と同様に、軽快な読み口と歯に物を着せない語り口でとても楽しい本です。タコが海沿いの大根を引き抜いて持って行っちゃう話やチョウを追ってトラの目の前を通り過ぎた話、ウジをウジデンブにして食べちゃう話、テッポウムシを生きたまま吸っちゃう話、ハチに会って木のフリをして一人だけ、どこも刺されなかった話とか、ゲテモノ好きの人はもちろん、普通の人でも面白おかしく読めることうけあいです。でも、今の時代にこういう本を出そうとしても、内容的にきっと発禁になっちゃうんでしょうね。

久しぶりに面白い本で楽しめました。

| | コメント (0)