辻まこと氏の本

辻まこと・父親 辻潤 折原脩三著

平凡社ライブラリーの一冊。これは新書で購入。この本はタイトル通り山の話はあまりありません。それでも、「晩秋の旅日記から」で草野心平氏の住まいに泊まって八ヶ岳に行く話があったりします。

この本を買おうと思ったのは、やはり「串田さんのこと」という話があったからです。串田さんの事について辻氏らしい解釈で書かれていて、また、その事がとてもぴったりと来る話になっているので、これまたさすがと思わせてくれる文章になっています。他にも「耳に残る尾崎さん」という題で尾崎喜八氏の話を書いています。

最後の方は数奇な運命を辿った父親「辻潤」について、ちょっとある意味遠くから、冷めた感じで書いています。

山の本ではありませんが、辻まこと氏に興味があれば、読んでみるのもいいと思います。

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辻まことセレクションⅠ 山と森 辻まこと著

平凡社ライブラリーの一冊。新書で購入。平凡社ライブラリーは初版の1回きりで終わりのものが多いのですが、結構売れたのか自分が購入したのは第二刷でした。このセレクションは「山と森は私に語った」「居候にて候」「山の風の中で」などから選び出したもの、と書かれていました。先日読んだ小学館ライブラリーのセレクションとできるだけかち合わないように配慮したのかなとちょっと思います。

何度読んでも辻氏の文章は、独特の語り口調、くだけているのだけどその中にしっかりとした知性を伺わせ、読んでいるとすぐに山の世界に引きずり込まれます。「諸君!足を尊敬し給え」「春の渓流」「十二ヶ岳遠足」「廃鉱の夜」などなど、楽しい作品がいっぱいです。

「十二ヶ岳遠足」は挿入されている絵がカラーなのが特徴。「毛無山から十二ヶ岳へ向かう」「十二ヶ岳から節刀ヶ岳へ」などの絵はモノクロではなくカラーで見たい絵です。

「靴」という文章の中では、水虫であったことを書いています。わざわざ自分の水虫の事を書くなんて、やはり普通の人では考えられないですよね。それを題材にしてしまうところが、やはり辻氏らしいです。

自分が面白いと思ったのは、「マンガ綴り方・スキーにいったとき」でしょうか。パパとママと子供の三人でスキーに出掛けた話で、わざと子供が書いたような挿絵にしています。スキーに来たけれどパパは飲んでばかり、ママは下手で宿でもスキーの格好を練習しますが、結局、足を捻ってしまい、帰ることになってしまいます。それだけの短い文章ですが、何か微笑ましい感じです。しかし、数奇な人生を送った辻氏はこの文章に出てくるようなごく普通の家庭ではなく、逆にそんな子供時代を送って見たかった事の裏返しではないか、と思ったりもしてしまいます。

セレクションとは言え、やはり面白い本でした。

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続・辻まことの世界 矢内原伊作編

みすず書房の一冊。この本もあまり山の話は多くありません。「虫類図譜補遺」「文明戯評」「ノイローゼよさよなら」などの絵と文章が入っています。山関連の話では「岩魚釣り」「川岸の春」そして「岳人の言葉」でしょうか。6章から成り立っていますが、そのうちのⅡⅢⅣ章あたりはかなり難解だったり、とっつきにくい文章が並びます。

「ノイローゼよさよなら」ではカラーで絵と文章を紹介していますが、なかなか面白いです。鎮静剤のコマーシャル用とのことですが、今の薬はほとんど殺風景なデザインですし、宣伝だってCMぐらい。こんな風刺があったら楽しいのではないか、と思います。最後の「岳人の言葉」は別途本が出ていますが、やはり遺稿となった最後の文章は裏の意味がありそうな文章です。

表紙は「かわはぎ」ということです。釣り好きだった辻氏にはうってつけなのではないかと思います。

ちょっと理解するのが難しい文章が多いので、この本は好き嫌いが出るでしょう。でも、手に入れて失敗したとは思わない本でした。

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辻まことの世界 矢内原伊作編

みすず書房の一冊。辻まこと氏の本としては「虫類図譜」「山からの絵本」「山の声」「山で一泊」「すぎゆくアダモ」がありますが、その中から虫類図譜と、それらの本に含まれていない作品を集めたものになっているということでした。矢内原伊作氏が辻まこと氏の紹介の意味もこめて取り上げたようです。虫類図譜はこの本に取り上げられたものがすべてではないようで、「続・辻まことの世界」で補遺として取り上げられています。山の話は少ないです。

辻まこと氏は戦争で天津に行って新聞記者などをやっていたようですが、「写生帖」という話では本当に戦争時代の凄惨な死体遺棄の現場を生々しく伝えています。自分は戦争世代ではなく、あくまで人に聞いた話や映画でしか知ることはできないのですが、本当にこれが現実にあった話かと実に衝撃的な内容でした。「山賊の話」も同様で、部隊に属していた時の話です。とある村でほとんど食べるものもなく、残るのは栄養失調の老人と子供、その一人と会話をする内容などは何も言えなくなります。辻まこと氏の世間などに対する辛辣な批判が出てくるのは、根底にこんな所があったからなのでしょう。

「夕焼けと山師」もなかなか興味深い話です。辻氏は実際に山師のまねごとをして山に入ったりしたようですが、Sという人物から話を聞いて、結局は山師になることを止めたきっかけになったようです。

表紙の「温泉岳の肩」もなかなか味のある画です。だいぶ前だけれど、尾瀬から奥鬼怒沼に向かって歩いたことがありますが、そのときもやはり倒木が結構あったりして山深い感じがあり、まったく人気のない雰囲気がやはりそのままよく出ていると思います。

おそらく今後も記憶に残り、たまに取り出してきて読みたくなる、そんな本だと思います。

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山からの言葉 辻まこと著

平凡社ライブラリーの一冊。

最近は古書店の中でも、誰でも読んでいそうな本をやたらと売っている店が流行りだそうだ。そんな店をよそに、埃の溜まった本が積まれたこれまた流行りなどとは全く無縁の古びた作りの古本屋で、山の本などというほとんど読まれもしない古めかしいモノを探しているのは、コッケイだと思えて仕方がない。そんな流行らない本をいくつか手にとって読んで見ると、そう言えばあの景色は良かったなあとか、あの尾根で滑ったっけ・・・なんて忘れていた思い出がよみがえり、そのままレジへ持って行ってしまうのは単なる感傷からなのだろうか。

なんて、思わず辻まこと氏の書き方を真似したくなりますが、この本は岳人の表紙と表紙の言葉をまとめたものです。元は白日社から出ていた「山の画文」とのことでした。見開きの左側に表紙、右側に文章という、あまり見掛けないレイアウトの本になっています。やはり読んでみると辻まこと氏らしい、小気味良い調子の文章とくだけた感じだけれど実はしっかり骨のある書き方、そしてちょっと風刺をおり混ぜた文章にどうしても引き込まれてしまいます。

1970年台に書かれたこれらの文章の中では、雪の降り方がおかしいのは人間が環境まで変えているのではないかとか、オイルショックのあった頃の文章では、新聞は世は末世のように宣伝している、とか書かれていたりして、現在にそのまま当てはまるような文章が書かれているのにはとてもびっくりします。歴史は繰り返すとはよく言われるけど、まさにそれが反映されているようです。

絵は、どちらかというとやさしい感じの絵が多く、ほんわかとした雰囲気が漂っています。その中で好きだと思ったのは、73年1月の雪山の尾根の突端の絵です。もうそこで雪の細い尾根は終わり、周りは崖で、向こうには雪をかぶった山々が並んでおり、そこに二人の登山者がいるという絵になっています。崖の陰影の描写、山の遠望など、とても雰囲気のある絵で気に入りました。巻頭にはカラーで数枚の絵が入っています。

薄い本で、いつでもどこでも、ちょっと開いて絵を眺めるだけでも、時間があれば何度でも文章を読み返して、裏に書かれた内容を追ってみるのも、また楽しいのではないかと思います。

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あてのない絵はがき 辻まこと著

小学館ライブラリーの一冊。神保町の小さな古書店で購入。以前紹介した「多摩川探検隊」と同じくこの本でも辻まこと氏の作品の中から山の話を選び出した内容になっています。「十二ヶ岳遠足」「山の声」「イヌキのムグ」「キノコを探しに行ってクマにおこられた話」「夏の湖」「横手山越え」など楽しい話が一杯です。

もちろん、カラーの絵も同様に挿入されていて、自分がその中で好きなのは「春」という絵でしょうか。朝日新聞社から出ていた深田久弥山の文庫「山頂山麓」の表紙にも使われていますが、印刷の関係なのか自分が持っている本の経年変化なのか、こちらに挿入されている絵の方がかなり春の雰囲気のある絵になっています。春霞のぼんやりした風景と、新芽が出始めた木や柵に掛けられた帽子が風に揺れている感じ、そして、青緑がかった土の感じなど、本当に柔らかないい雰囲気で、何度見ても印象的な絵になっています。

この本では今となっては高額で手の届きにくい「すぎゆくアダモ」が取り上げられています。さっと読むと何が書きたかったのか全く分からず、その意図を計りかねて何度も読んでしまう文章です。

天気が悪くて山に行けない一日。そんな時にふと読んでみるのもいいかもしれません。

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多摩川探検隊 辻まこと著

小学館ライブラリーの一冊。辻まこと氏については自分があえて説明しなくてもWEBで検索すればいくらでも熱心なページが見つかります。西湖のあたりに別荘を持ち、奥鬼怒などにもよく入っていたようです。この本は辻まこと氏の著書などの中から抜き出したものです。著書のうち、2冊ほどまだ再版が手に入るものの、古書はかなりの高額になってしまっています。この本は古書価はそれほど高くなく、比較的安価で手に入るため、貴重です。自分も神保町の本屋さんで安価で手に入れました。

やはり、なんと言ってもタイトルにもなっている「多摩川探検隊」の話は面白い話です。子供の頃、いろいろなものに興味を持ちますが、実際に辻まこと氏が友人一人と多摩川を遡る話です。子供二人しかいないのに、巡査が一晩泊めてくれたりして、今、こんなことをしたら、おそらく職を追われてしまうでしょうけど、そんな古きよき時代が微笑ましい感じです。

カラーで絵も何枚か挿入されていますが、自分が印象に残るのは、やはり「むささび撃ちの夜」と「志賀の春」でしょうか。特に「志賀の春」はぼんやりとした暖かい雰囲気と淡いグリーン、山にはわずかに雪が残り、本当に春の雰囲気がよく出ている絵になっています。

この本で辻まこと氏の本に、すっかりはまってしまいました。

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