燕岳から餓鬼岳縦走2
その1からの続きです。
雨具がもう古いこともあって完膚なまでに濡れていたので、本当は小屋泊まりにしようと思ったのですが、あえてテント泊にしました。どこまで悪条件の中、自分が耐えられるのかを試してみたいと思っていました。
しかし、替えの靴下はなく、足下から寒さがじんじんと来ます。シュラフも濡れていて入っても暖かくならず、夜には雷もなってかなりの雨。なんとかうとうととすると、寒さで目が覚める、そんなことを何度も繰り返して体力を消耗しました。
隣のテントの人が4時前に起き出して動きだしたので、自分も起きます。テントの入口を開けると星空が広がっていて、晴れることは予想できました。しかし、体が重く、もう唐沢岳に行く気力も体力もなくなっていました。
しばらくテントの中で時間を潰して、6時前にようやく餓鬼岳に向かいます。雲一つない素晴らしい快晴。
これは針ノ木や立山方面でしょう。
これは鹿島槍方面かなぁ。
そして、左は八ヶ岳、真ん中は富士山、右は南アルプスでしょうね。
小屋に戻って、下山する旨を小屋番さんに伝えると、「なんでこんな天気にすぐ下山しちゃうの?」という感じの顔色がちらっと伺えましたが、タクシーの予約を受け付けてくれました。自分の登山地図だと4時間になっていましたが、4時間30分がコースタイムみたいです。下山の分岐にも4:30と書かれていました。
白沢登山口へ向かいますが、最初は普通の道です。七曲りと言っても、普通のじぐざぐ道。その先は樹林帯の中を下っていきます。雲海の下に入って霧が出てきます。登り返しもあって、少し辛い。山頂とは思えない通過地点にこの道標がありました。
しかし、この先が一箇所、谷の中を歩くところで崩壊している地点があります。まだ踏み跡も固まっていないので、つい最近崩壊したようです。そこで滑落してしまいました。2mほどでしたが、腕の上に小さな岩が転がってきて、腕に傷を作ってしまいました。とりあえず崩壊地を降りなきゃと、踏み跡を探して下り、ようやくまともな道が出てきて、さあ、あそこで手当をしようと思った矢先、今度は木の桟道が半分壊れていて、滑って右に転げ落ちます。転がっただけで済みましたが、爪の根本のあたりの皮膚を切ってしまい、血が流れています。少し先まで行って絆創膏を貼って、なんとかなりました。
沢沿いの道になると、こんな桟道やハシゴ、高巻き道が連続です。体力も使うし、桟道は滑りやすいので注意しなきゃ、と思って歩いていると、左が岩で、その横の下に空間のある高い位置にある桟道が出てきました。この桟道は少し右側に斜めっています。しかも足裏の感覚でヌルッとした感じがあったので、これはゆっくり歩かなきゃと思った瞬間、ぐらっと足下が滑り、右に体が振られます。溺れる者は藁をも掴む、ではないけれど、左にあった草を瞬間的ににぎりました。一瞬、止まったかに思えましたが、「ブチッ」という音と共に無情にも千切れてしまいます。
時間の流れが一瞬止まったような気になって、「これでおれも終わりか...」と転がっていく自分を感じていました。右側は草が生えていて、どのようになっているのか、歩いている時には全く状況が見えていませんでした。下の沢までは高さがあり、崖になっているものと思っていました。ごろっと、重いザックが下になって落ちましたが、突然、ピタッと体が止まりました。
「あれっ、止まったぞ。」思わず呟いてしまいましたが、自分の頭の少し上に今落ちた桟道が見えています。よく見ると、右側の草の中に古い木の階段が見えています。どうやら、古い登山道が下にあり、アップダウンを避けるように、その上に桟道を作ったらしいのです。天の助けとはこのことでしょう。気を取り直して、右に行けば、すぐに桟道に戻れる場所に出ました。どこか怪我したのかと体を触ってみましたが、少しあざを作った程度で、どこも怪我している様子はありません。なんと幸運だったのでしょうか。
気を取り直して、同じ桟道を通ります。よく見ると左の岩に細くてさびた古い鉄線がありました。これでも掴んでいれば少なくとも転げ落ちることはなかったと思います。その先もいくつも桟道がありましたが、石橋を叩いて渡るように、ゆっくりと渡りました。
ようやく着いた白沢登山口。ホッとしたことは言うまでもありません。やはり唐沢岳を往復していなくて良かったようでした。
5分ほど歩いた所が車の終点。そこにタクシーがすでに待っていてくれました。大町温泉薬師の湯へ直行。4300円と思っていたよりも安く済みました。
まじめに、かなりやばかった山歩きでしたが、五体満足で帰れたのは幸運でした。
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こうやってブログを書いているので、無事なことはわかっていますが、それでも、読んでいてハラハラドキドキしました。
本当に、無事でよかったです。
濡れた木、って、怖いですよね。
投稿: chiyomi | 2009年8月 6日 (木) 19時22分
chiyomiさん、こんにちは。
今までも転げ落ちたことは何度かありますけど、3回も滑落したのは初めてでした。
やはり体力も注意力も落ちていたのでしょうね。
登りや小屋泊まりくらいの荷物であれば、こんな事にはならなかったとは思います。
苔が生えた木や石は最悪ですね。
今年は雨が多いので、こんな状況になっていたのではないでしょうか。
軽量化されたテント用の新しいザックも欲しい所ですが、やはり雨具が先でしょうね。
投稿: リブル | 2009年8月 6日 (木) 20時55分
リブルさん、こんばんは~。
ご無事でよかったです。
なんだか、cyu2さんといい、リブルさんといい、怪我を伝染させてしまったようで申し訳ないです。
雨のテントは雨音が結構うるさいので何度も目が覚めてしまうのですよね。シュラフの濡れもあって、たぶん相当に睡眠不足な状態だったのではないでしょうか。そして滑りやすい足もと、悪天による視界の悪さ、崩壊地…、悪い条件が重なった中でのことだったのでしょう。
そんな中、とりあえず大怪我にはならずにすんで本当によかったです。
私の方は、治りが遅く、やっと最近階段の上り下りがまぁ人並みに(笑)できるようになったところです。
写真を見ると、ああ、やっぱりこの時期はアルプスなどの高山が好いなぁ、と羨ましくなりました。 とりあえず、まだウォーキングあたりから慣らしていこうかと言う状態ですが、秋頃には高いところにも行きたいな、とこのレポを読んで思いました。
投稿: ゴン太 | 2009年8月 6日 (木) 21時26分
ゴン太さん、こんにちは。
お気遣いありがとうございます。
そういえばゴン太さんの陰がちらついたかも...。
なんて嘘です、ごめんなさい。
だいぶぼんやりしていたのは事実ですが、やはり足の感覚がにぶっていたのが一番でしょうか。
こんなに自分は体力なかったっけ、と思い知らされました。
そろそろ天泊には向かない年なのかなぁ、なんて帰りの電車は弱気にもなりました。
やっぱり夏は高い山に行きたいですよね。
階段がしっかり歩けるようになれば、登山道を歩けるようになる日も近いですね。
ゴン太さんも早く全快して、楽しいレポを読ませてくださいね。
投稿: リブル | 2009年8月 6日 (木) 21時53分
リブルさん
あれ~大変だったんですね。何はともあれ、帰ることが出来てよかったです。
アルペンガイドでは難易度が星2個半なのですが、もっと難路のような印象ですね。
荷物の重量がテント装備クラスになると、体や足の動きは70歳くらいの人のレベルになると、何かで読んだことがあります。
私の場合、飯豊で数メートル滑落したときのことを思い出しました。無意識につかんだ草が千切れるその感覚、今も覚えています。
ももがスイカのように丸く腫れ上がって、その晩はテントの中でうめいていました。
どうかお大事に。
投稿: 金森 | 2009年8月 6日 (木) 23時59分
いやー ビックリしました。
なにはともあれ無事でよかったですね~。
私の場合は山で木の桟道とか見ると
過剰反応しちゃいますよ。
骨折の原因だからね。
写真で見るのも嫌
だからこういうのを見かけると
雨の後だと ハイハイして通過とかしますね。
投稿: いっき | 2009年8月 7日 (金) 11時42分
こんにちわ。
北アルプスに行かれたのですね。昨年登った所から眺めた餓鬼岳でしたが、景色が素晴らしいですね。
ハラハラしながら読みましたが、不幸中の幸いとでも言いましょうか、先ずはご無事でほっとしました。昨年野口五郎岳に登った時にかなり気になっていた山でしたが、結構大変そうですね。
今年の天気は太平洋高気圧が弱くて山登りの人達にとっては番狂わせですね。
お怪我の方お大事にどうぞ。
投稿: フクシア | 2009年8月 7日 (金) 13時17分
レポを楽しく読み進んでいたら、滑落の文字、後はドキドキハラハラしながら読みました。
雨の後、疲れも有っての事でしょうね。
一人だったし、これからも楽しい山歩きを続ける為にも気を付けて行きましょうね。
大きな怪我に成らなくて良かった。
投稿: 山百合子 | 2009年8月 7日 (金) 14時24分
金森さん、こんにちは。
ほとんどは自分の疲れによるものですが、あの崩壊地については難易度が上がっていると思います。
踏査した時には普通の道だったのでしょうね。
あそこは整備して欲しいですが、まだまだ状況によって崩壊しそうな雰囲気でした。
金森さんもそのような経験があるのですか。
あまり思い出したくない経験ですね。
大きなザックが緩衝材の代わりにもなったようです。
今も残る大きなアザがちょっと痛いです。
投稿: リブル | 2009年8月 7日 (金) 20時30分
いっきさん、こんにちは。
確かに桟道は怖いですね。
でも、ここまで滑るとは思っていませんでした。
確かにハイハイ状態というのは、いいかもしれませんね。
まったく考えても見ませんでした。
ちょっとナメていたのかもしれませんね。
投稿: リブル | 2009年8月 7日 (金) 20時42分
フクシアさん、こんにちは。
餓鬼岳はちょっと離れていて不遇の山ですが、やはり眺めは素晴らしいものがあります。
唐沢岳はもっとすごかったのでしょうが、ちょっと残念でした。
燕岳から縦走ではなく、この道から登って、燕岳の方に縦走した方が安全ですね。
東沢乗越からの登りは少しきついかもしれませんが、危ない所は一切ありませんし、
岩稜をいくつも越えていく所も朝に通過してしまうので、こちらの方がお勧めです。
ただ、唐沢岳を往復するのだと、一日で燕岳まで行くのは辛いので、もう一泊になってしまうでしょうけど。
擦り傷と打ち身で済んで本当に良かったと思います。
投稿: リブル | 2009年8月 7日 (金) 20時50分
山百合子さん、こんにちは。
本当に体力も気力も疲れていて、注意力散漫になっていたのでしょうね。
一人だと何があっても自分で対処しないといけないですね。
普段は人一倍、気を付けているつもりですが、今度ばかりは参りました。
たぶん、次回からはこんなに雨に濡れた時は、小屋に逃げ込むでしょうね。
ありがとうございました。
投稿: リブル | 2009年8月 7日 (金) 20時55分
ビックリしましたー。
でも皆さんも仰っていますが、本当に不幸中の幸い?何事もなくてよかったです。
リブルさんレベルの方が「これでもう終わりか・・・」と思ってしまうほどなのですから、
よほどのことだったのでしょう。
自分に置き換えて・・・考えさせられました。
良い勉強をさせていただきました、詳細なレポありがとうございました。
どうかお身体お大事に!!
投稿: cyu2 | 2009年8月 7日 (金) 23時02分
cyu2さん、こんにちは。
さすがに崖から落ちるという経験は自分もないですよ。
どのくらい落ちるか見当も付かなかったので、そういう風に思ってしまったのです。
普段、細かい事はblogでは書かず、ホームページの方に書いているのですが、
今回ばかりはちょっと厳しい経験だったので、書いちゃいました。
だいぶ復調しましたが、アザはなかなか治らないですね。(^^;
投稿: リブル | 2009年8月 8日 (土) 19時06分
あの道はそんなに大変な道だったんですねぇ。正直びっくりしました。
濡れた桟道は水平でも怖いのに傾斜がついていると余計に恐怖ですよね。
日帰りなら這っていく所でしょうけど,テンパクだとそうもいかないですものね。
ボクも以前月山の登りしな、朝一に念仏が原の桟道でこけて肩をおかしくしたことがあります。
とにかくお疲れ様でした~。
投稿: komado | 2009年8月10日 (月) 20時41分
komadoさん、こんにちは。
やはり比較的人の少ない山ですから、こんなこともありなんでしょう。
桟道は手を入れてから多少時間が経っていそうな雰囲気です。
あれだけ数があると、なかなかすべてに手入れも行き届かないでしょう。
そういえば、komadoさんは月山に肘折温泉からのコースを歩かれているんですよね。
その時にそんなことがありましたか。
肘折温泉は前に行ったことがあるのですが、とっても湯治場という雰囲気で好きでした。
いつかは自分も歩いてみたいです。
投稿: リブル | 2009年8月10日 (月) 21時36分